フランス革命期の聖職者といえば?

フランス革命期の聖職者といえば?

フランス革命期には、改革派の聖職者ミラボーや反革命派の司教たちが存在した。宗教改革と政治闘争の双方で重要な役割を担ったのである。本ページでは、フランス革命期における宗教指導者の立場や社会的影響力を理解する上で重要なこのテーマについて、さらに詳しく掘り下げ解説していく。

フランス革命って、王政や貴族への反発がメインの動きという印象がありますが、聖職者はどんな立場だったのでしょうか? 教会って当時はかなり力を持っていたと思うのですが、そのなかにも革命を支持した人がいたんでしょうか? 革命に積極的に関わった聖職者がいれば、その人物がどう行動し、どんな影響を残したのかを教えてください。



フランス革命期に活躍した聖職者で、もっとも象徴的な人物といえばエマニュエル=ジョゼフ・シェイエスです。彼は本来なら既得権益側にいたはずの聖職者でありながら、真っ先に革命の大義に賛同し、その理論的な土台を築いた人物でもあります。


とくに有名なのが、彼が著したパンフレット『第三身分とは何か』。この一冊が、革命の空気を一気に現実の行動へと変えていったとも言われています。


「第三身分とは何か」で革命を加速させた

1789年、シェイエスはまだ小教区の聖職者でありながら、政治への関心と改革への情熱を持ち続けていました。そんな中で発表したのが、『第三身分とは何か』というパンフレット。この中で彼は、庶民(第三身分)こそが国家の中心であり、第一身分(聖職者)や第二身分(貴族)はもはや国家の役に立っていないと、思い切って宣言したのです。


この主張は大きな衝撃を呼び、第三身分の代表たちに政治的自信と行動の正当性を与えました。のちの国民議会の結成バスティーユ襲撃へと続く流れの中で、シェイエスのパンフレットは、いわば革命の“起爆装置”として機能したわけです。


エマニュエル=ジョゼフ・シェイエスの肖像

エマニュエル=ジョゼフ・シェイエスの肖像
「第三身分とは何か」を著し、フランス革命における社会的及び政治的変革の必要性を訴えた思想家。
(出典:Creative Commons Public Domainより)


聖職者でありながら特権に背を向けた

シェイエスの革命支持は、聖職者という立場から見ると非常に異例でした。当時の聖職者たちは、社会の中で特権を持ち、税金も免除される「守られた存在」でした。しかしシェイエスはそうした体制に疑問を持ち、聖職者としての“内側”から制度の矛盾を告発したわけです。


実際、彼は1789年の三部会に第一身分(聖職者)代表として出席しましたが、すぐに第三身分に合流して国民議会の結成に加わります。この行動は、他の聖職者にも大きな影響を与え、「教会=保守」という構図を大きく揺るがすものでした。


さらに革命が進む中でシェイエスは、憲法制定議会でも活躍し、王政の権限を制限する法整備にも尽力。つまり彼は、ただの理論家ではなく、実際に手を動かして制度を作る側にもまわったのです。


ナポレオン時代にも影響力を残す

シェイエスの存在がもう一度注目されたのは、1799年のブリュメールのクーデターのとき。混乱する総裁政府に失望していた彼は、「政治を立て直す新しい力」が必要だと感じていました。そこで目をつけたのが、軍人として人気絶頂だったナポレオン・ボナパルトです。


クーデターは成功し、シェイエス自身も新政権の統領の一人に名を連ねますが、実際にはナポレオンがすべてを掌握。以後、シェイエスは徐々に政治の第一線から退きます。


それでも彼の果たした役割──特に革命の思想的出発点となる『第三身分とは何か』の影響力──は、歴史の中で決して小さなものではありません。彼は、「言葉の力で時代を動かした聖職者」として、今も語り継がれています。


エマニュエル=ジョゼフ・シェイエスは、特権階級の一員でありながら、その構造自体を覆そうとした内側からの革命者でした。


彼が発した「第三身分こそ国家だ」という言葉は、民衆にとっての自己肯定であり、革命の理念を言語化した象徴でもあります。政治的には表舞台から消えていきましたが、その思想はフランス革命の精神に深く刻まれ、現代の市民社会にも通じるメッセージを残しています。