
フランス革命というと政治家や思想家の名前が真っ先に思い浮かびますが、実は科学者や数学者の中にも、革命と深く関わった人物がいたと聞きました。数学って一見、政治とは無縁の世界のように思えますが、当時のフランスではそれがどう結びついていたのでしょうか?革命期に活躍した代表的な数学者がいれば、その人がどんな活動をして、どんな影響を残したのか知りたいです。
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フランス革命期に活躍した数学者といえば、まちがいなくガスパール・モンジュが筆頭です。彼は解析幾何学や記述幾何学の発展に貢献した一流の科学者でありながら、革命のただ中で政治や教育にも大きな影響を与えた、まさに“科学と政治をつなぐ架け橋”のような存在でした。
モンジュの人生は、「数学が社会を変える」というテーマそのものを体現しています。
ガスパール・モンジュは、もともとリヨン近郊で育った庶民出身の数学者。若くして頭角を現し、技術士官学校で軍事施設の設計を担当するようになります。ここで彼が生み出したのが、物体を正確に平面に描く記述幾何学という手法。この技術は、砦の設計や砲台の配置など、軍事工学にとって非常に重要なものでした。
つまりモンジュは、理論数学を実戦に応用できる形で具現化した人物だったのです。
そして革命が勃発すると、その技術者としての能力が国に求められるようになります。モンジュは軍需生産や技術者の育成に関わり、国家の再構築に貢献していきます。数学者でありながら、まさに“実務家”としての顔を持っていたんですね。
ガスパール・モンジュの肖像
フランス革命期に数学者および政治家としての重要な役割を果たした。
(出典:Creative Commons Public Domainより)
革命期のフランスでは、これまでの貴族中心の教育制度を一新し、新たな国家の担い手を育てる教育改革が進められました。ここで中心的な役割を果たしたのがモンジュです。彼は科学技術の力で国家を強くしようと考え、技術者教育の近代化を推し進めました。
とくに彼が設立に関わったのが、今もフランスで名門とされるエコール・ポリテクニーク(理工科学校)。この学校は、軍事・土木・科学などあらゆる分野のエリート技術者を育てることを目的としており、モンジュはその初代校長を務めました。
彼の教育方針は、「実用性」と「理論の融合」にあります。抽象的な知識だけでなく、それを社会に役立てることができる技術者を育てる──この思想は、今日のSTEM教育にも通じる考え方です。
モンジュが興味深いのは、単なる技術屋ではなく、フランス革命の理念──自由や平等──にも深く共感していたことです。彼はジャコバン派に共鳴し、国民公会では政治家としても活動。軍需品の調達や行政改革にも携わりました。
また、革命政府のもとで「新しい市民社会のための教育」が叫ばれるなかで、科学者としての信念を貫き、「誰もが学べる平等な教育の場」を作ることに尽力します。理性と科学を土台にした社会を構想する姿勢は、まさに啓蒙思想と革命の融合点とも言えます。
革命が終息し、ナポレオンの時代が到来してからも、モンジュは彼に協力しつつ、学問の発展と国家の近代化に尽くしました。数学者という枠を超えたその行動力は、まさに“多才の革命人”でした。
ガスパール・モンジュは、「数学の力で社会を変える」というビジョンを、理論だけでなく実際の行動で示した人物でした。
彼は砲台の設計から教育制度の改革、さらには国家の再建にまで関わり、まさにフランス革命期の“理性と技術の化身”といえる存在です。混乱の時代にこそ、論理と学問がどれだけ力を持ち得るのか──モンジュの生涯は、その答えを私たちに教えてくれます。
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