フランス革命に対しイギリスが行った工作活動とは?

フランス革命に対しイギリスが行った工作活動とは?

フランス革命期のイギリスは、反革命派の資金援助や諜報活動を行った。国内の不安定化を狙い、政権転覆を支援する策も講じたのである。本ページでは、フランス革命期におけるイギリスの工作活動を理解する上で重要なこのテーマについて、さらに詳しく掘り下げ解説していく。

フランス革命について学んでいる中で気になったのが、当時のイギリスの対応です。革命が広がるのを恐れていたのは分かるのですが、実際にイギリスがどんな行動を取ったのか、特に裏で行ったような情報戦や世論操作のようなことがあったのかが知りたいです。宣戦布告や外交だけではない、秘密工作のような動きがあれば、ぜひ詳しく教えてください。



フランス革命に対してイギリスが取った対応は、単なる対外戦争や批判声明だけではありませんでした。革命の理念が国内に波及するのを本気で警戒していたイギリス政府は、思想面での封じ込めや、情報戦を通じた世論工作にも力を入れていたんです。


その中でも特に有名なのが、エドマンド・バークによる『フランス革命の省察』の出版です。これは個人の評論という体裁を取りつつも、実質的にはイギリス政府が進めた思想的な防衛戦略の一部であり、革命の急進性を批判して「伝統ある体制の安定こそが大事だ」というメッセージを広く国内外に発信する役割を担っていました。


イギリス政府が恐れた「革命の輸出」

18世紀末のイギリスでは、議会制度があるとはいえ、貴族の影響力は依然として強く、社会も階級的に構造化されていました。そんな中、フランスで「国民が王を倒す」という前代未聞の出来事が起こると、「次はイギリスかも」という空気が一部に広がり始めます。


特に、労働者階級や改革を求める知識人の中にはフランス革命を支持する声もあって、これに危機感を持ったイギリス政府は、国内の反体制的な動きを抑え込もうとしました。その手段の一つが、世論をコントロールするための言論工作でした。


当局はパンフレットや新聞、説教集を使って革命の恐ろしさを訴え、フランスの混乱や処刑の惨状を強調して、国民に「こんなことが起きてはならない」というイメージを植え付けていったのです。


フランス革命の省察

『フランス革命の省察』 の表紙
エドマンド・バークの著書。同著で伝統的な価値と秩序の重要性を強調し、急進的変化による危険性を警告した。イギリスによる政治的工作の一環と言える。
(出典:Creative Commons Public Domainより)


言論と出版を使った「思想の防波堤」

バークの『フランス革命の省察』は、出版当時から非常に大きな影響を与えました。特に注目すべきは、この本が単なる知識人の評論という枠を超えて、保守的な立場の正当化と、急進派に対する反論の根拠として積極的に利用された点です。


イギリス国内では、バークのような保守派と、革命を称賛する改革派の間でパンフレット戦争(Pamphlet Wars)と呼ばれるほどの激しい論争が繰り広げられました。改革派の中心人物には、アメリカ独立戦争でも知られるトマス・ペインがいて、彼は『人間の権利』を出版し、バークに真っ向から反論します。


しかし政府はバーク側を支持し、改革派の出版物を押さえ込み、検閲や弾圧も辞さない姿勢を見せました。こうした動きは、思想の自由が保障されていたはずのイギリスにおいても、「革命」の余波がいかに現実的な脅威と見なされていたかを物語っています。


スパイ活動と監視ネットワークの拡充

もうひとつ見逃せないのが、イギリス政府による秘密警察的な監視体制の強化です。フランス革命後、イギリスでは「国内のジャコバン派」と呼ばれるような急進主義者の取り締まりが行われ、多くの人がスパイによって監視されていました。


1790年代には、各地の郵便物が政府によって開封されたり、改革団体の会合が潜入捜査官によって記録されるようになります。さらに、イギリス国内に逃れてきたフランス人亡命者たちも監視対象となり、彼らの動向が逐一政府に報告されるという徹底ぶり。


これらの活動は、表向きは「治安維持」の名目でしたが、実際にはフランスからの思想的影響を遮断し、自国内の改革運動を未然に潰すための抑止策だったと言えるでしょう。


このように、イギリスがフランス革命に対して行った工作活動は、思想面から治安対策に至るまで多層的かつ巧妙なものでした。


言論を使って人々の意識に介入し、スパイを使って組織や個人の動きを把握する――そうしたやり方は、後の19世紀ヨーロッパ各国の体制維持の手法にも影響を与えていきます。


つまり、イギリスの対応は「革命の波」に対する初期の防衛線として、ヨーロッパの秩序維持のあり方にひとつのモデルを示したとも言えるのです。