ビスマルクのフランス革命への関与とは？

フランス革命とビスマルク、一見まったく接点がないように思えますが──実はその影響はビスマルクの政治の根底にしっかりと流れています。
フランス革命がもたらしたナショナリズムの波は、のちのヨーロッパ諸国の動きを大きく変えていきました。
そして、その流れに乗りながらも、逆らいながらも、冷徹に自国の利益を追求したのがビスマルクなのです。

ナショナリズムの時代に現れた戦略家

フランス革命が生んだ最も大きな思想のひとつが、「民族が国をつくるべきだ」というナショナリズムの概念でした。
この考え方はナポレオン戦争を通じてヨーロッパ中に拡散し、19世紀にはドイツやイタリアのような分裂国家でも「統一」を求める運動へとつながっていきます。

この時代に登場したのが、プロイセンの宰相オットー・フォン・ビスマルク。彼は武力と外交を駆使して、数十のドイツ諸邦をひとつにまとめ上げました。
その過程で彼がうまく利用したのが、ナショナリズムの高まりと、それを刺激する「外敵」の存在──すなわちフランスでした。

1870年、プロイセンとフランスのあいだで起きた普仏戦争は、まさにその集大成。
戦争の勝利によってビスマルクは、ヴェルサイユ宮殿でドイツ帝国の成立を宣言し、ドイツ統一を世界にアピールしたのです。

ヴェルサイユ宮殿でのドイツ帝国の宣言
ビスマルクがドイツ統一を宣言する場面。フランス革命以降のナショナリズムの高まりと対立の中で、ビスマルクはドイツの統一と近代化を推進した。
（出典：Creative Commons Public Domainより）

革命の記憶を利用したプロパガンダ戦略

ビスマルクはただ軍事や外交の天才だったわけではなく、人々の心をどう動かすかという「政治の空気」にも敏感な人物でした。
フランス革命の影響で広まった民主主義やナショナリズムへの憧れ、それに対する保守的な反発──その両方を巧みに使い分けたんです。

彼は国内の自由主義勢力を抑えるために、戦争を利用して「外への怒り」に目を向けさせました。
普仏戦争も、実はエムス電報事件という「誤解を誘うよう編集された」メッセージをフランスに送ったことで開戦を誘発しています。

この戦争の勝利で、ドイツ国民の統一意識を爆発的に高めることに成功。
その後も、フランス革命のような民衆の運動が再び自国に起きるのを恐れ、社会主義者への弾圧や、労働者保護法の導入といった、矛盾した政策を併用しました。

つまり、ビスマルクにとってフランス革命は、反面教師でありつつも、時代の空気を読むための教科書でもあったわけです。

「革命後」のヨーロッパで築いた新秩序

フランス革命が王権を打倒して以来、ヨーロッパの多くの国では市民と国家の関係が大きく変わりました。
かつてのように、王や貴族だけが国を動かす時代は終わりを迎えつつありました。

この変化のなかでビスマルクは、プロイセン主導で近代国家ドイツを作り上げながらも、革命的な動きを徹底して避けました。
彼は共和制や急進的な改革には背を向けつつ、教育制度や軍制、社会保険などの「上からの改革」で国の土台を固めていきます。

その結果生まれたのが、強力な官僚機構と軍事力を持つ中央集権国家ドイツ。
この体制は、革命による混乱を経験せずに、秩序と近代化を両立させるための「ドイツ流の答え」だったとも言えます。

フランス革命が理想と情熱で未来を描いたとするなら、ビスマルクは計算と現実主義でその時代を泳ぎ切った、そんな政治家だったのです。