
フランス革命とトイレ…あまり結びつかない組み合わせですが、実は革命期の社会変化は日常生活のインフラにも少なからず影響を与えています。身分制度の崩壊や都市計画の見直しが進む中で、公共衛生や生活環境に対する考え方も変わったと言われます。では、王政から共和制へ移行した激動の時代に、フランスのトイレ事情や衛生設備はどう変わっていったのでしょうか? 革命が人々の「用の足し方」に与えた影響を教えてください。
|
|
フランス革命(1789〜1799年)の直接の目的は政治体制の改革でしたが、その余波は都市のインフラや衛生環境にも及びました。革命期には封建的な土地制度が廃止され、公共の空間や施設の整備が「市民のため」という観点で見直されます。この流れの中で、都市部ではトイレや排水設備を含む公共衛生の改善が徐々に進みました。
革命以前のトイレ事情は、身分によって大きな差がありました。貴族や裕福な市民は邸宅内に専用の便所(いわゆる「水回り付きの私室」)を持っていましたが、庶民は路上や共同の簡易便所を利用するのが普通でした。
革命で貴族や教会の建物が国有化されると、それらが学校や行政庁舎に転用される過程で、新たに便所や排水施設が整備される例も見られます。公共施設としてのトイレ整備は、この時期から少しずつ意識されるようになったのです。
中世ヨーロッパの城に設置されたトイレ
高い位置に設置され、廃棄物が外壁から直接排出される設計で、衛生的な問題への対応として考えられた。フランス革命期にも同様の衛生設備の改善が進められた。
(出典:Creative Commons Public Domainより)
革命期の都市では人口が集中し、下水やごみ処理の不備が病気の蔓延を招いていました。新政府は国民の健康を「公共の利益」として扱うべきだという啓蒙思想の影響を受け、排水路の整備や共同便所の設置に関心を示します。
ただし当時の技術では水洗式はまだ普及せず、溜め式や簡易構造のものが主流でした。それでも「衛生は個人の責任ではなく社会全体の課題」という意識が芽生えたのは、この時期の大きな変化と言えます。
革命期の改善はまだ部分的なものでしたが、19世紀に入るとナポレオン時代の都市計画や後のパリ大改造につながります。革命で培われた「公共のための施設整備」という発想が、近代的な上下水道や公共トイレの整備を促す下地となったのです。
つまり、フランス革命はトイレ文化そのものを一変させたわけではありませんが、衛生と平等な利用の概念を結びつけるきっかけを与え、後の都市衛生改革の土台を築いたと言えるでしょう。
こうして見ると、フランス革命はトイレを直接的に進化させたわけではないものの、公共衛生の発想や施設整備の意識に火をつけました。その波はやがて近代都市のインフラ整備へとつながっていくのです。
|
|